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事業承継の観点からみた「ビッグモーター」

新潟県長岡市のアパレル衣類修整のプロ集団、山田修整有限会社社長の吉田です。「衣料品修整」=納品トラブル解決をサポートする経営者の立場から考えることを中心に書き留めています。

 

ビッグモーターの不正事件について、事業承継の観点から見た問題点を整理してみたいと思います。

 

1)保険金の不正請求問題などにより信用を失い、客足が離れ、売上げも大幅減

 このような状況では、事業承継の対象となる企業価値が低下してしまいます。事業承継には、承継者が企業価値に見合った対価を支払うことが必要ですが、ビッグモーターの場合、対価として借入金90億円の返済が求められており、このような高額な負債を引き受ける承継者はなかなか見つからないでしょう。

 

2)親族内承継や従業員承継といった内部からの事業承継が困難

 親族内承継では、経営者の子供や親族が後継者となりますが、ビッグモーターの経営者は現在逮捕されており、その家族も不正事件に関与している可能性があります。このような場合、家族間での信頼関係や社会的評価が低下してしまい、事業承継を円滑に進めることができません。また、従業員承継では、経営者の部下や幹部が後継者となりますが、ビッグモーターの従業員も不正事件に加担していたり、会社への忠誠心やモチベーションが低くなっていたりする可能性が高いと考えられます。このような場合、従業員間での信頼関係や経営能力が低下してしまい、事業承継を円滑に進めることができません。

 

3)第三者承継という外部からの事業承継も困難

   第三者承継では、他社や投資家などが後継者となりますが、ビッグモーターは不正事件によりブランドイメージや顧客満足度が低下しており、事業内容や資産も魅力的と言える状況にありません。このような場合、第三者からの買収意欲や提携意向が低下してしまい、事業承継を円滑に進めることができません。

 

4)経営者は何を遺そうとしていたのか?

 このように、ビッグモーターは不正事件により、事業承継を阻む様々な問題点が表面化していますが、いずれも長期間にわたって醸成された企業風土が背景にあり、かなり根が深いことが想像できます。

 パナソニックの創業者である松下幸之助は、企業の業種業態や事業規模の大小に関わらず「企業は社会の公器(コウキ)たれ」と言っていますが、そのように、経営者の人格からにじみ出るような経営哲学を元代表取締役社長兼重宏行氏の記者会見から感じることはできませんでした。

 

 事業承継は、単なる企業の売買ではなく、企業の存続や発展のための戦略的な経営判断であり、社会的責任をないがしろにしては成立しません。ビッグモーターは、存続し、事業承継を真剣に考え、実行に移すことができるでしょうか?